調理の基礎知識
訪日外国人の増加に伴い、食事のニーズも多様化しています。
例えば、肉や魚、卵や乳製品などの動物由来の食材を食べないヴィーガンや、
豚やアルコールを口にしないイスラム教徒(ムスリム)など、さまざまな食の習慣や禁忌がある人が増えてきています。
本ページでは、植物由来の食材で満足感がある料理をつくるための、9つの手法を紹介します。
野菜の味や香りを濃縮してボリュームを出すなど、食感を工夫することで、
口に入れた時のインパクトを強め、植物由来の食材だけでも十分に満足感のある料理をつくることができます。
料理をする時は五感をイメージすることが大切です。味覚はもちろん、嗅覚、触覚、聴覚、視覚のすべてが味に影響を与えます。
これから紹介する9つの手法と、その手法を使った15品の対応レシピを参考にしながら、
より多くのお客様に安心して楽しんでいただける料理にチャレンジしてみてください。
本サイトにおけるヴィーガンとハラールの考え方
ヴィーガンとベジタリアンについて
ベジタリアンとは、広く肉・魚介類を食べない人のことをいい、人によって卵や乳製品を食べない人もいます。
動物由来のもの全般を食べないヴィーガン、乳製品は食べるラクト・ベジタリアン、
卵は食べるオボベジタリアン、乳製品と卵は食べるラクト・オボ・ベジタリアン、
香りの強い野菜(玉ねぎ、ねぎ、にら、にんにく、らっきょう、あさつき等)を避けるオリエンタルベジタリアンなどの種類があります。
本サイトで掲載しているレシピは、動物由来の食材・調味料を使用しないレシピをヴィーガンとして掲載しています。
※砂糖は製造工程において骨炭が使われていないもの(精製過程におけるろ過や脱色に動物の骨が使われていないもの)を使用
宗教上の戒律と禁忌について
歴史の変遷とともに食事は栄養補給から文化行為へと変化し、それぞれの宗教が広まる過程で様々な理由から食の戒律や禁忌が設けられてきました。
主に豚とお酒を口にしないイスラム教、豚やうろこのない水産物などを食べないユダヤ教、牛などを食べないヒンドゥー教等、さまざまな理由により食に禁忌を定めている宗教があります。
本サイトで掲載しているレシピは、豚肉と豚由来の食材・調味料、及びアルコールを使用していないレシピをハラール対応メニューとして掲載しています。
※鶏肉はイスラムで定められた方法でと畜されたものを使用
[ヴィーガン・ハラール対応の心得]
●ヴィーガン
- 日本料理で良く使われる「だし」は、魚介類を含む動物由来のものを使用しないよう注意しましょう。(かつおだしは使用不可、昆布だしは使用可)
- 卵、乳製品、ハチミツも使用できません。
- 調理に使用する油脂のうち、「バター」「ラード」「ヘット(牛脂)」「魚油」等は動物由来の食材にあたりますので、注意が必要です。
- 動物由来の食材を揚げた油の再利用は避けましょう。
●ハラール
- 豚および豚由来の食材はすべて使用できません。
- 牛や鶏はイスラムの教えに沿った方法でと畜されている必要があります。判別は困難なため、ハラール認証された食材を使いましょう。
- みりん、料理酒は調理法によってはアルコール成分が揮発しますが、ハラールに関してはその使用自体が不可と判断されています。
- 豚由来の食材を揚げた油の再利用は避けましょう。
※調理器具や食器は、通常の洗浄をすれば共用でも問題ないと感じるヴィーガンやムスリムもいますが、人によっては NG とされている方もいます。
判断基準には個人差があるため、全てのお客様に対応される場合は、専用の調理器具や食器を用意すると良いでしょう。
※本心得は基本的な事項であり、すべての対応方法を網羅するものではありません。
- 本サイトのレシピは、お店のメニューとしてご自由にお使いいただけます。
- 本サイトのレシピで紹介されている材料(砂糖類、ソースなど)は、市販されている全ての商品が、ヴィーガン・ハラール対応になっていることを保証するものではございません。 ご自身の店舗や施設でメニューをつくられる際は、使用する食材・調味料の原材料・成分を仕入先やメーカーに確認し、動物由来など、使用できないものが含まれていないかをチェックするようにしましょう。
- ヴィーガンやハラールの解釈は地域差や個人差があるため、食材だけでなく、ご自身の店舗の対応状況(調理環境など)も含めて、お客様に説明できるようにしましょう。
ヴィーガン・ハラール対応における調理の基礎知識
①焦がす
焦がすという手法は、嗅覚を刺激します。
どのように焦がすか、例えば近火の強火と遠火の強火では、素材の水分量が大きく変化します。その結果、スモーキーな香りがプラスされたフレッシュな味わいや、香りに奥行きのある凝縮された味わいなど、効果的に変化させることができます。
また、焦がすという手法は、燻製のように素材の風味を高めることができます。焦がした素材の皮も食材ごとに味が異なりますので、例えば焦がした皮を乾燥させて調味料として使うと、余すことなく素材の個性を活かすことができます。
「ブロッコリーのステーキ スパイシー BBQ ソース」は、この手法を使用した料理です。
茄子やトマトなどの果菜類は表面の皮が焦げても内側の果肉が焦げにくいため、この手法に適しています。
ほかにもキャベツやネギなどの葉菜類や、ダイコンやニンジン、カブやゴボウ、ビートや玉ねぎなどの根菜類にも有効な手法です。
②乾燥させる
乾燥という手法は、味わいの濃度やテクスチャーに変化を与えます。
素材が持つミネラル分や糖分を濃縮させることで、様々な変化を起こせます。
効果的に水分を飛ばして濃縮させる乾燥という手法を使うと、野菜のみでも味わいの強弱を演出することができます。
また、乾燥と同時に塩味や糖分を足したり、ハーブや柑橘などの香りを加えることで、さらに奥行きを演出できます。
「精進だしで作る穴子もどきの煮物椀」は、この手法を使った料理です。
トマトやきのこなどの水分が多い野菜は、水分をコントロールすることにより、味わいや表情を変化させ、香りを際立たせることが可能です。
例えば、干し椎茸や乾燥ポルチーニ茸は乾燥させることで旨みを凝縮し、その戻し汁は調味料としても使えます。
他にも発酵きのこを乾燥させることで、独特の酸味と旨みを持つパウダーをつくることもできます。
このように乾燥により味を濃縮させた食材は、素材単体としても、調味料としても使用できます。
③発酵させる
発酵という手法は、素材の力強さに変化を与えます。
世界ベストレストランの「noma」が北欧の発酵文化に着目したことで料理界に大きな影響を与えましたが、日本には古来より独自で多様な発酵文化が存在しています。
発酵によってもたらされる食材への変化は大きく、時には同じ食材が全く別のものになります。
そのため発酵度合いを調整することで、食材の表情を何層にも奥深く変化させることができます。
「トマトと豆乳のカクテル」は、この手法を使った料理です。
発酵は水分の多い野菜や果実に向いています。
逆に水分の少ない食材を発酵させると、食材とは別の水分を補いながらの発酵になるため、食材本来の味わいがあるエキスは薄まります。
食材のみを発酵させたいのか、食材の発酵とともにエキスも重視するのかにより、発酵という手法を使い分けると効果的です。
④酸味を使う
酸味を使うと、味にキレや厚み、深さを作ることができます。
例えば、酸味を強めに効かせれば味わいが鋭くなり、甘味と組み合わせると濃厚さを作り出すことができます。
また、柑橘類の酸味を使えば清涼感を演出することができます。
「ケールのジェノベーゼ 季節野菜のフリット添え」は、この手法を使った料理です。
酸味を加える代表的な食材は、酢と柑橘類です。
酢は酸味と甘味のバランスから整理すると、使い分けが考えやすくなります。
また、例えばバルサミコ酢は、そのままでは酸味がたっていますが、煮詰めると甘酸っぱいシロップのようにも変化します。
酸味の使い方とあわせて、酸味がある食材自体のコントロールやアプローチを工夫することで、より様々な表情を表現することができます。
⑤油分を補う
植物由来の油脂を意識的に補うと、味わいのボディーを深めることができます。
油分を補う技法には、料理の仕上げにオイルをかける、食材を揚げる、油分の多い食材を使う、などの方法があります。
料理の仕上げにオイルをかける際、香りが不要の場合はグレープシードオイルを、香りにアクセントがほしいときにはココナッツオイルを使うなど、香りの強弱で選びます。
また油は香りを吸収しやすい性質を持つため、油に香りを添加することで奥行きを演出することもできます。
ニンニクオイルやハーブオイル、燻製オイルはこの特性を活かしています。
食材を揚げると、水分が脱水して味が濃縮するのに加え、食材が揚油を吸収して風味が高まり、味わいのインパクトが強くなります。
「大豆ミートを使った麻婆豆腐」は、この技法を使った料理です。
油分の多い食材を使う場合は、ナッツ類を使用します。
形のままで使えば食感のアクセントになりますし、ブレンダーにかければねっとりとした口当たりのペーストになります。
濃厚なコクが欲しい場合には生の白ゴマをペーストにしたタヒニや、牛乳のようなコクが欲しい時はココナッツのミルクやクリーム、シュレッドが便利です。
⑥火入れを工夫する
火入れを工夫して、香りや水分量、テクスチャーなどに変化を与えます。
肉や魚と同じように、野菜の調理においても火入れは大切な手法です。
焼く、煮る、揚げる、茹でる、焦がすなど、素材の持つ水分量や糖分などの性質を捉えつつ、数ある火入れの中から求める料理へのアプローチを考え、味わいの濃縮や香りの添加などに効果的に利用したい手法です。
「ひよこ豆粉の野菜オムレツ風」は、この手法を使った料理です。
火入れにおいて重要になるのは、水分量です。
火入れは、細胞の変化(成分変化を含む)とともに水分量の変化を起こします。
食材に含まれる水分は、生の状態では水風船に包まれたような状態ですが、加熱すると風船が壊れて水分が流れ出てきます。
例えば、焼き茄子が加熱に伴いトロトロになるのが代表的です。
水分が多い食材ほど、火入れにより食感や質感に変化を与えられます。
⑦ハーブやスパイスを使う
ハーブやスパイスを使うことで、豊かで複雑な香りや、強く濃厚な印象を残すことができます。
肉や魚の料理にハーブやスパイスを使うのは肉などの臭みを和らげるのが目的ですが、野菜に使う場合は香りを重ねることで、より香り豊かに仕上げることができます。
「ダマスクローズとひよこ豆のアリッサソース」は、この手法を使った料理です。
ハーブを使う場合は、フレッシュハーブと乾燥ハーブの香りの特徴を掴み、使い分けをすることが大切です。
また乾燥ハーブを使う際には、使用直前に乾煎りなどをして、温めてから使用することでより香りが高まります。
スパイスを使う場合は、それぞれのスパイスの香りの特徴をしっかりと理解して使用することが大切です。
またスパイス自身もそのままの状態で使うのか、あるいは割ったり砕いたりして使うのかでも印象は大きく変わりますので、用途に合わせて使い分けます。
⑧食感を活かす
味や食感のアクセントになりやすい食材を効果的に使うことで、野菜や豆が主体の料理にもインパクトや満足感をもたらすことができます。
また野菜などの素材自体への火入れによる食感の変化も表現すると、料理としての満足感や楽しみを高めることができます。
「2種の具材で食感を楽しむ変わりいなり寿司」は、この手法を使った料理です。
アクセントとして使える食材には、ひよこ豆やチアシード、車麩や大豆ミート、グラノーラやポップコーンなどがあります。
⑨味を含ませる
味を含ませることで、味わいに厚みや奥深さを表現できます。
味を含ませる手法には、素材を加熱後にだしに浸す、浸透圧を利用してマリネする、真空して加熱しながら味を含ませる、などがあります。
また野菜のブイヨンや昆布だし、トマトのエキスなど、様々な表情があるエッセンスを用いることで、ひとつの野菜からも厚みや奥深さを表現することができます。
「野菜が主役になる丸茄子の揚げだし」は、この手法を使った料理です。
茄子や大根のように、生の状態では肉質はしっかりしているのに加熱すると水分が流出し、その隙間に味を染み込ませられる野菜に適した手法です。
漬物の素材となるような野菜も同様です。
例えば、千枚漬けに代表される蕪は水分の塊ですが、漬物にする段階で漬け地との浸透圧の関係で水分の交換が行われ、あの甘味ある味わいの漬物となります。
水分が多い野菜ほど、その野菜自体の水分と含ませたい液体の交換がスムーズに行われます。